曼珠沙華だよと母の遠い耳へ むく

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クシャダス紀行(3) 春は曙

2016/03/05 Sat

 1999年3月29日。

 誰かが車窓のカーテンを開けた音に目が覚める。
 白々と夜が明け始めている。
 四時間近く眠っただろうか。

 黒い大きな木の影が、見えては飛ぶように過ぎて行く。
 道の近くの木々の大きな影。
 谷を挟んだ向こう側の斜面に繁っている木々の遠い影。
 針葉樹らしい。
 落葉松(からまつ)かもしれない。
 寝ている間、バスは山道を走っていたようだ。

 ここはどこだろう。
 時間からすると、イズミルからそんなに遠くないところまで来ているはずだが。


foggy_morning_forrrest_image
Free image downloaded from PEXELS (Copyrighted)


 雨残りのせいか深い靄が立ち込めていて、夜が明けるのに手間取っているようにも思える。
 バスが下り勾配の道を走っていることに気付く。
 やはりエーゲ海に近づいているようだ。

 緩やかな長い坂を下って道が平地にさしかかると、靄の中から、ピンクの花を咲かせた果樹園らしい畑が現れては過ぎ去ってゆく。
 こんな春めいた景色の中では、深い靄という言う方はおかしい。
 濃い霞と言い換えたほうが良さそうだ。

 それにしても、あれは何の花だろうか…と気にかかる。
 黒海エレリからイスタンブルに向かうバスの車窓から、花咲くアーモンドの果樹園が見えた。
 同じピンクでも、少しくすんで何となく淋しさが漂うアーモンドの花に比べると、鮮やかな花色だ。
 梅や桃ぐらいの木の高さで、アーモンドのように高木ではない。

 ふと、東京から寝台車で仙台に帰省した時に、福島辺りで迎えた夜明けの春霞を思い出す。
 牛乳を流したような濃い霞の中に見えた花盛りの桃の果樹園。
 あの遠い昔の景色を彷彿とさせる春の曙。
 マイカーでの旅なら車から降りて、その桃源の趣きにしばし溺れてみることだろう。
 もしクシャダスでも同じ花を見かけたら、必ず、近くまで行って確かめてみよう。

 果実が生っている季節ではないが、あちこちにオリーブ畑も見え始める。
 オレンジやレモンの果樹園も。
 
 先刻までの深山幽谷の趣きは消え、あっという間に温暖なエーゲの長閑な春の景色に変わった。
 もうすぐ海が見られる。
 今ではギリシャ領だがかつてはその多くがトルコ領だった大小の島々が並ぶ、どこを切り取っても絵葉書になりそうな輝く夏のエーゲ海もいいが、こんな鄙(ひな)びた春景色のほうが私は好きかもしれない。

(最終更新日:2016.3.10)



「違憲安保法廃止」、「原発ゼロの日本」を求める超党派の市民運動を応援します。(渡邊むく)

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Author:渡邊むく
職業:産業技術英語通訳・翻訳者。男性。俳句歴:2000年より。(主な発信地:神奈川県横須賀市、静岡県御殿場市)

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