BGM: Aqua Harp


茱萸沢のここより棚田雪解富士 むく

男坂・女坂

2016/02/14 Sun

 2月9日。

 小さな川の両側に小家が建ち並ぶ谷戸の径を歩いて、乗って来たJR横須賀線とは別の京急線のガードを潜ると、ほどなく田浦梅林の入口に着いた。
 この梅林に来たのはひと昔前。
 その時は京急田浦駅から歩いたので、梅林に登った道はいま目の前にしている石の階段とは違う、古道のような急坂だった。
 その険しい坂道を囲む林に、幹の肌が鹿子模様をしたカゴノキ(鹿子の木)という大きな常盤木が何本も茂っていた。
 梅を観に来た山で見かけた鹿子(かのこ)模様の珍しい木になんとなく春らしさを感じて、句を詠んだりもした。


紅梅
紅梅 (田浦梅林:神奈川県横須賀市 2016.2.9)


 あの急坂に比べれば今日の階段は登りやすい…と思ったのは束の間。
 上り始めて5分と経たないうちに息が切れてきた。

 甲斐甲斐しく階段を掃除している作業服姿の男衆に出会った。
 階段に張り出した下枝をチェーンソーで払っている人もいる。
 これから迎える観梅のピークに備えているのに違いない。
 日ごろ仕事で鍛えられている羨ましい体力の持主揃いの、私より年長らしいその男衆に声をかける。

 「おはようございます。
 ご苦労さまです。
 この坂は息が切れますね。」

 「こっちは男坂だから。
 あっちにもっと楽な女坂がありますよ。」
 同情されてしまったようだ。

 指差した方向から推し測ると、男衆が言った女坂は私が以前登った急坂とは違うようだ。
 きっと登り口が幾つもあるのだろう。
 そのまま男坂を登る。


早春
早春 (田浦梅林:神奈川県横須賀市 2016.2.9)


 だいたい、梅を観に来るのに重い600mmの望遠レンズまで持ってくる了見が間違っている。
 目白が梅の花の蜜を吸うところを撮ろうと思ったのだが、考えてみれば目白なんてどこの梅の木にだってやって来るのだ。
 山の上まで重たいレンズを運び上げなければ撮れないものでは全くない。
 我ながら呆れた馬鹿だと、人ごとのように思う。


白梅
白梅 (田浦梅林:神奈川県横須賀市 2016.2.9)


 男坂、女坂と聞くと、すぐに思い浮かぶのが湯島天神。
 東京の梅の名所の一つ…ということになっている。
 梅園としてそんなに見応えがある訳ではないが、とにかく有名ではある。

 湯島天神の梅やその男坂、女坂が有名になったのは、小説や映画のお陰である。
 湯島の白梅は泉鏡花の小説『婦(おんな)系図』と、鶴田浩二と山本富士子が共演したその映画でつとに有名になった。
 そして、その湯島天神の男坂と女坂は森鴎外の小説『雁』によってよく知られるようになった、と私は思っている。
 早い話が、ロマンスに憧れる人の心に訴えるから有名になったのだと。
 今ここに、あの山本富士子のようなミス日本が現れでもしたら、ひょっとして私でも田浦梅林の男坂と女坂を有名にしてやれるかもしれないのだ。
 男坂はおろか女坂を登っても息が切れるようでは、端っから覚束ない話だが。


水仙
水仙 (田浦梅林:神奈川県横須賀市 2016.2.9)


 日射しこそあるものの、山頂は涅槃西風(ねはんにし)が吹き荒れていた。
 梅が見頃を迎えるのは二月も後半になってからだろう。

 男坂と女坂。
 まるで探梅のためにあるような言葉のカップルだ。


梅霞
梅霞 (田浦梅林:神奈川県横須賀市 2016.2.9)



「違憲安保法廃止」、「原発ゼロの日本」を求める超党派の市民運動を応援します。(渡邊むく)

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職業:産業技術英語通訳・翻訳者。男性。俳句歴:2000年より。(主な発信地:神奈川県横須賀市、静岡県御殿場市)

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