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雪渓の細き一条富士の紺

俳句エッセイ: 珊瑚採り

2014/04/04 Fri

 日付変更線に近い太平洋上に、小さな点が連なるように浮かぶマーシャル諸島クェゼリン環礁は、真珠の首飾りとも呼ぶべき造化の奇跡である。
 地図にも載らない芥子粒のような島々には、白砂の浜にココ椰子が繁り、リーフの内には色鮮やかな魚が群れる。
 男はアロハシャツを、女はムームーを着て、万事のんびりと暮している。

 奇なる縁から、ゴーギャンのタヒチの絵を彷彿とさせるこの楽園に一年半もの間滞在したのは、一九七二~三年、二十代半ばのことだった。
 辛うじて電気はあるものの、テレビもなければ電話もない。
 スコールを溜めては飲み水と為し、寄せ来る波をウォッシュレットと為す孤島暮らしである。
 日本との通信は手紙に頼るしかなく、流れ星を見れば胸騒ぎを覚えた。

 ある日、クェゼリンとは少し離れたマーシャル諸島の首都、マジュロを訪ねた。
 首都とは言っても人口一万人弱の小島である。
 そこで島の住民から「あのリーフに見えている座礁船で来た日本人が三人いる」と聞いて、その三人が住む浜辺の小屋を訪ねてみた。
 三人はともに沖縄は糸満の漁師という中年の男たち。
 「今夜、針千本鍋をやるから」と誘われて、夜また出直した。

 「俺たち、鮪を獲りに来たことになっているが、本当は紅珊瑚を採りにきたのさ。
 前は沖縄でも採れたんだが…。
 俺には鼓膜がない。
 あると深く潜れないから取ってしまった」と、その夜、裸電球一つの殺風景な小屋の中で漁師の一人が語ってくれた。

 子供の頃はサイパンに住み、島に米軍が上陸してからは山中の防空壕に隠れ住んだという終戦話も聞いた。
 その凄惨極まる話を、泡盛を酌み蛇皮線を爪弾きながら静かに語る漁師の姿が、今も瞼に焼き付いている。

    孤島暮らし煮出して作るアイスティー

    突いたエイと縺れ沖へまた沖へ

    鳥山の立つ夏潮を全速力

    また鮫だ頭だけ釣る夏まぐろ

    航跡もイルカの群も夕焼ける  

    珊瑚採り鼓膜を捨てた遠い夏

    夏の月シーラカンス眠れる海へ


 ―― 『惜春』2013年9月号に「旅の木」(114)「クェゼリン環礁」として掲載



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テーマ : 詩・和歌(短歌・俳句・川柳)など
ジャンル : 学問・文化・芸術

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渡邊むく

Author:渡邊むく
産業技術英語通訳・翻訳者。男性。岩手県生まれ宮城県育ち。人生の大半は首都圏暮し。海外生活約10年。俳句歴:2000年より。主な発信地:神奈川県横須賀市、山梨県山中湖村。

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