富士初雪落葉松の大金屏風

二人の乳飲み子 (ハリール・ジブラーンの詩)

2015/12/24 Thu

クリスマスツリー)・雌


 今夜はクリスマス・イヴですね。
 むかし訳したレバノン生まれの詩人の詩を…。
 悲しい詩ですが。


二人の乳飲み子
- Two Infants -
by Kahlil Gibran
訳・渡邊むく



 王子は宮殿のバルコニーに立つと、
 お祝いに集まった大群衆に向かってこう演説し た。

 「諸君、そしてこの幸運な国に住む全ての民衆よ、おめでとう!
 高貴な我が家名を継いで、やがては
 諸君の誇りとなるであろう新しい皇子が誕生した。
 偉大にして栄えある血筋の新しい一員、
 そしてわが王国の燦然たる未来を約束する後継者の誕生だ。
 さあ、歌えよ、踊れよ!」

 群集は、やがて横暴な権力を振るって弱者を支配し、圧政によって
 自分たちの首を 絞めるであろう新しい専制者を歓迎して、
 喜びと感謝に満ちた歓声をあげ、
 陽気な歌声を空いっぱいに響かせた。

 そういう宿命であるからこそ、人々は恍惚となって
 新しいエミール*(注:アラブの首長)の健康を祝して歌い、酔い痴れた。

 時を同じくして、その王国にもう一人の子供が生まれた。
 群集が未来の暴君を誉めそやし、
 強者を崇めて自分たちを卑下していた時、
 そして天国の天使が、人々のか弱さや
 隷従ぶりを嘆き悲しんでいたその時、
 一人の女が病の中で思い沈んでいた。

 女は古い廃屋に住み、
 ぼろの産着に包まれた生まれたばかりの乳飲み子を脇にし て、
 硬いベッドに横たわり、飢えて死にかけていた。

 女は人間らしい扱いを受けることもない貧しくて不幸な若妻で、
 夫は王子の圧政のために命を落としたのだった。
 一人残された女が苦しみ続けて命を長らえなくてもいいようにと、
 その夜、神さまは女に小さな道連れを遣わされた。

 人々が散り、あたりに沈黙が戻った時、
 哀れな女は乳飲み子を膝に乗せると、その顔を覗き込んで、
 まるで流す涙で乳飲み子に洗礼を施すかのように、哭いた。
 そして、空腹のために力も失せた声で、こう子供に語りかけた。

 「おまえはなぜ霊魂の世界を出て、
 この世の苦しみを私と分かちに来たの?
 おまえはなぜ天使や広々とした大空を捨てて、
 苦しみや圧政や非情に溢れたこの憐れな人間の世界に来たの?

 私には涙のほかに何もあげるものがないの。
 お乳の代わりに涙で育とうと言うの?
 私にはおまえに着せる絹の布もないの。
 着るものもなくて震えている私の腕の中で、温かくなれるとでも言うの?
 幼い動物たちは牧場で草を食べて無事に小屋に帰り、
 小さな鳥たちは種をついばんで平穏に梢で眠るけれど、
 おまえには、愛しいおまえには、愛情しかない貧しさ窮まる母がいるだけ。」

 そうして女は、二つの体をかつてのように一つにしようとするかのように、
 痩せ細った胸に乳飲み子を抱いた。
 女は燃えるような目をして、ゆっくりと天を見上げて叫んだ。
 「神さま!不運な国の民に憐れみを!」

 その瞬間、月の面(おもて)から浮雲が離れ、
 その貧しい家の取り窓に月光が射し込み、
 二つの亡き骸を照らした。



「違憲安保法廃止」、「原発ゼロの日本」を求める超党派の市民運動を応援します。(渡邊むく)

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テーマ : 詩・和歌(短歌・俳句・川柳)など
ジャンル : 学問・文化・芸術

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プロフィール

渡邊むく

Author:渡邊むく
職業:産業技術英語通訳・翻訳者。男性。岩手県生まれ宮城県育ち。俳句歴:2000年より。主な発信地:神奈川県横須賀市、静岡県御殿場市。

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