美しい賭け
2015/05/24 Sun

2015.5.17 スイートピー (観音崎公園:神奈川県横須賀市)
フラワーアレンジメントのような、咲き残りのスイートピー。
洋花のフラワーアレンジメントを見ると、決まって思い出すことがあります。
四十歳になるのを前に会社勤めを辞めて間もない頃。
二週間ほど、それまでに何かと世話になってきた人たちを、アメリカ各地に訪ね歩いた時のことです。
最後に立ち寄ったのはロサンゼルス。
数日間、市内で手広く花屋を営む韓国人実業家リー夫妻の家に厄介になりました。
自らも生花をアレンジしながら、甲斐甲斐しく店員さんたちの指揮を取り、店を切り盛りするのは夫人の仕事で、他にも事業を抱えている夫のリー氏が花屋に関係するのは、経理面など、もっぱら裏方の仕事を支えること。
その日の売上管理は、夕方夫人が店から戻った後、好きなクラシック音楽を聴きながら自宅で行い、愛車のジャガーを運転して銀行に行くのが翌日の朝の仕事。
温厚そのものといった人柄で、いつももの静かなリー氏のクラシック音楽好きはかなりのもので、午後の数時間は、迫力のあるご自慢のマッキントッシュのオーディオ装置で、たっぷりと音楽を聴いて過ごすのを日課のようにしていました。
ある朝、夫のリー氏が朝の仕事をこなしに出かけたあと、納豆、冷奴など、私のために心尽くしの朝食を整えてくれた夫人が、ふと漏らした言葉。
「音楽が好きな人に悪い人はいないから…。」
フラワーアレンジメントを見ると、夫人のこの言葉がいつも思い出されるのです。
ある日、ジャガーに同乗して、銀行に行くリー氏のお付き合いをしたことがありました。
道々、知りたかったことをリー氏に訊ねてみました。
「どうして花屋を始めることになったんですか?」
「アメリカに来て、家内は初め韓国人居住者を集めて英語の教師をしていました。
そんなところに、"市内の有名な花屋の前のオーナーが高齢になったので引退したい"と、店を売りに出しているという話を耳にしたんです。
でも、二店舗一緒じゃないと売らない、と。
二店舗も買うだけのお金はなかったので、即金で払えない分は月賦にして貰いました。」
「今までに一番大きかった取引は?」
「5万ドル。」
「どんな注文だったんですか?」
「ハリウッドのお金持ちのお孫さんの誕生祝いパーティの花で、"庭を花で一杯にしてください"という注文でした。」
「花屋の事業が成功した秘訣は?」
「掛け売りOKにしたこと。」
「勇気のある決断でしたね。」
「花を贈る人に悪い人はいないと賭けたんです。」
「払ってもらえなかった時はどうするんですか?」
「手紙を送ります。
『いついつまでにお支払いがない場合は、お届け先に請求させていただきます』と。
すぐ飛んで支払いに来ますよ。」
花を贈る人に悪い人はいない…。
なんと美しい賭けをしたことでしょう。


スポンサーサイト
テーマ : 詩・和歌(短歌・俳句・川柳)など
ジャンル : 学問・文化・芸術
コメント
こんにちは
時の流れや 縁に生かされているのでしょうか
難しく考えたことはないのですが いよいよそんな年頃になってきたのでしょうね 私自身が・・
ともさま
体調が定まらず、ご返事が遅れて失礼しました。
>結局人生は賭けなのでしょうか
>時の流れや 縁に生かされているのでしょうか
>難しく考えたことはないのですが いよいよそんな年頃になって>きたのでしょうね 私自身が・・
上手いことは言えませんが、少なくても、「自分の力だけで生きている、生きられる」と思う人、あるいはそう思っている間は、心の安らぎは得られないのではないか、と思います。
ブログ記事更新まで、もう少しお待ちください。
気分の良い今日の朝です。