BGM: Contigo en la Distancia - Chris Botti (Trumpet)


湖を描いてゐる花合歓の下 むく

小倉秀男(おぐらひでお)

2014/08/10 Sun

 月刊『俳句界』8月号の「ピックアップ・注目の句集」に紹介された、『春嶺社』主宰小倉秀男氏の俳句に釘付けになりました。
 紹介されたのは、今年上梓された氏の第5句集『壺天』(こてん)。

 まず氏の略歴を、同誌から拾ってご紹介します。

 1928年4月(昭和4年)千葉県生まれ。
 46年より作句。柏崎夢香、林寥雨の指導を受け「ホトトギス」「山彦」等に投句。
 68年より「若葉」「春嶺」に依り、富安風生、岸風三樓、宮下翠舟に師事。
 70年春嶺賞、94年往来賞受賞。
 「春嶺社」主宰、俳人協会評議員、俳人協会千葉県支部顧問、船橋市文学賞俳句部門選者。
 句集に「乾坤」(けんこん)、「磐座」(いわくら)、「知足」(ちそく)、「光陰」、「自註小倉秀男集」など。

 「新作10句」から。


         軽羅にて八十六の旅に出る

 季題は軽邏で夏。
 「軽邏にて」とは「羅(うすもの)を羽織って」、つまり「カジュアルな夏の装いで」という意味。
 俳句を詠む人でもあまり使わなくなった言葉で、理解しにくい言葉かもしれませんが、作者の意気や良し、と。


         渋取りの豆柿太り花こぼす

 季題は柿の花で初夏。
 柿渋(かきしぶ)にはいろいろな用途があります。
 紙を張った傘の防水塗料としても使われてきました。
 うなぎ屋や焼鳥屋がパタパタと炭を煽る渋団扇(しぶうちわ)もその一つ。
 日本酒を造る際の、オリを沈める清澄剤としても使われてきました。
 この句もそういうことが解っているといないとでは味わいが違ってくるように思いますので、果たして現代ではどこまで…という気もします。
 が、そういう消えゆく伝統や文化を謳うのも俳句だと思います。
 そして、背景を知ってみると、景が燦然と輝いてきます。
 酒が好きだという作者らしい眼を感じます。


         列連ね卯波とどろく九十九里

 季題は卯波で初夏。
 卯波というと、安房鴨川出身の女流俳人鈴木真砂女(すずき・まさごじょ:1906 - 2003)が銀座で営んでいた小料理屋、「卯波」を思い浮かべてしまいます。
 それは作者にも当然あった思いだったような気がします。
 「真砂女さん、みんなで連なってあなたの房総の轟く初夏の海を見ていますよ」と、そんな気持が託されている句のようにも。

 
         浜昼顔廃船半ば埋もれをり

 目にしなければ良かった俳句。
 と言うのも、先日から私が詠もうとして詠み切れないでいた景色だから。
 浜昼顔が、私の場合は鬼百合で、その鬼百合が邪魔して句に纏められないでいたのです。
 「浜昼顔」だからこそ、廃船が半ば埋もれているのが「砂の中」であることが鮮明になります。
 鬼百合ではそれが表せません。

 でも、さっぱりしました。
 これで、私の中にある廃船の景を詠むことは一生ないでしょう。
 佳い句です。


         ほととぎす波の伊八の天狗寺

 「波の伊八」こと武志伊八郎信由(たけしいはちろうのぶよし)も現在の安房鴨川の房総の人で、葛飾北斎の「富嶽三十六景」の一つ「神奈川沖浪裏」に影響を与えたと言われる、躍動的な波を彫る欄間(らんま)彫刻の名人でした。
 「神奈川沖浪裏」は、外国でも「世界で初めて時間を止めてみせたアート」と絶賛された名作ですが、北斎は、そのヒントを「波の伊八」の欄間彫りから得たというのです。
 実は、私が住む横須賀市の久里浜あたりに北斎の母方の実家があり、若き北斎がしばらく逗留していたこともあったようです。
 また寓居のすぐ近くには「マリア観音」で知られる小さな寺院もあるのですが、そのマリア観音も伊八の作で、この寺院には伊八が彫った波の欄間もあるようです。
 余談になりましたが、この句も「波の伊八」を知らなくては感慨が薄いでしょう。

 
         酒蔵の戸に酵母咲き梅雨兆す

 動詞が二つある句が幾つかあります。
 私もたまに詠むことがあります。
 なるべくそうならないようにしてはいますが。
 それが少し気になるかどうか…読み手次第ということに。
 でも、この句は佳景だと思います。
 カビが佳景というのも変ですが、表現の世界でのこととして。

 肝心の句集に収められた句に触れる前に、すっかり長文になってしまいました。
 近日中に続編を書いてご紹介したいと思います。

 今どき珍しく硬派な俳人に出会った…という印象です。
 また、自分が詠みたいと思う世界の一つを表現して見せてくれる俳人です。
 「観念ではなく物を詠む」姿勢が十分に感じられます。




にほんブログ村 ポエムブログ 俳句へ
スポンサーサイト

テーマ : 詩・和歌(短歌・俳句・川柳)など
ジャンル : 学問・文化・芸術

コメント

Secret

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
プロフィール

渡邊むく

Author:渡邊むく
職業:産業技術英語通訳・翻訳者。男性。俳句歴:2000年より。(主な発信地:神奈川県横須賀市、静岡県御殿場市)

最新記事
カテゴリ
月別アーカイブ
最新コメント
リンク
検索フォーム
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR