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湖を描いてゐる花合歓の下 むく

上田日差子(うえだ・ひざし)

2014/07/26 Sat

 月刊『俳句界』に毎号掲載される「自選30句の」の7月号に紹介されている俳人は、1962年生まれの上田日差子(うえだ・ひざし)さん。
 父(上田五千石)も俳人、祖父も上田古笠という俳人という家柄の人で、『ランブル』という結社の主宰であり主婦でもあります。
 その上田日差子さんの自選30句があまり素晴らしかったので、その中から11句を『俳句界』に掲載されている順番に従ってご紹介したいと思います。


         いまどこに桜月夜にゐるといふ

 日差子氏がいつごろご結婚されたかは知りませんが、この句とその前に掲載されている4句は、氏が独身時代にお詠みになった句かと思われる、若々しさの感じられる句でした。
 この句に関しては、携帯電話が普及するようになってからの時代の句のようにも感じられます。
 いや、そういう若々しい現代性のある句と申し上げるほうが的確なのでしょう。

 それはともかくとして、日差子氏より一世代上の60代の私としては、この句の後に続く句、つまりご結婚後と思われる句のほうにより魅力を感じるので、それらを中心にご紹介することにします。


         豆飯や佳きことすこしづつ伝へ

 季題は豆飯で夏。
 当世、グリーンピースは缶詰も冷凍品もありますから、豆ご飯の季節感も薄れてきたかとは思いますが、この句からはそんな時代の変化のことなども含めて、日本の文化をさりげなくわが子に伝えようとしている母親としての日差子氏の姿が彷彿としてきます。
 以下、説明は省きます。


         立つことは枯れてゆくこと大はちす


         深吉野や月光に鯉ひるがへり


         この庭の文様として色鳥来


         秋草にたがひちがひの風の揶揄


         翅休めゐるかに花のかたくりは
 

         吊し雛ひとつひとつを灯にくるみ


         芽吹山詩には未生のことばたち


         ものがたりはじまるやうに梅咲けり


         卯の花に群青の夜来たりけり

 最後に一言。
 どれも好きな句ばかりですが、特に「卯の花に群青の夜来たりけり」の一句は素晴らしいの一言に尽きます。
 「あぁ、卯の花が咲く初夏の一日も終わりね」というだけの、「二句一章」だとか「取り合わせ」だとかには無縁の句なのですが、この句にしても、掲出した他の句においても、その余韻の深さといったらどうでしょう。
 「や、かな、けり」の切れ字の安易な使用は慎まなければなりませんが、その安易さはなく、他の掲出句の作風からも自らに十分に戒めているであろうと思われます。

 「芽吹山詩には未生のことばたち」の一句からは、言葉の冒険者、表現の挑戦者として俳句という詩の精神の真髄に迫ろうとする、日差子氏の決意が伝わってきます。
 これらの句から、日差子氏はすでに父五千石を超えているのではないか、とさえ思うのは私だけでしょうか。
 語弊があるかもしれませんが、「二世、三世らしからぬ」詩才に恵まれ、虚実の境界に立って深い抒情を自在に詠うことのできる境地を若くして既に獲得したこの俳人に、機会があったらぜひ俳句を教わりたいとさえ思いました。
 『俳句界』7月号の「特別企画」は稲畑廣太郎(ホトトギス主宰)、星野高士(玉藻主宰)、坊城俊樹(花鳥主宰)の三氏による「虚子曾孫座談会」でしたが。




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テーマ : 詩・和歌(短歌・俳句・川柳)など
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Author:渡邊むく
職業:産業技術英語通訳・翻訳者。男性。俳句歴:2000年より。(主な発信地:神奈川県横須賀市、静岡県御殿場市)

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