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航跡もイルカの群も夕焼ける

螢舞う

2020/06/20 Sat


    フォスターの野外シアター螢舞ふ /むく

        (ふぉすたーのやがいしあたー ほたるまう)





 Musical "Stephen Foster Story"


 二十年近く前の句。

  ケンタッキー州バーズタウン

 アメリカのケンタッキー州にバーズタウン(Bardstown)という町がある。
 ケンタッキー州では最も古い町の一つで、南北戦争以前に建てられた建造物などの歴史的な景観が今も保存されている。
 生涯学習プログラムの選定地の一つとして、訪れるアメリカ人も少なくない。

 三十代半ばの頃のある日、アメリカの最北の州ミシガンから最南部のルイジアナ州ニューオーリンズまで車で旅をした。
 その途中でバーズタウンに一晩泊った。
 宿は人々がまだ馬や馬車で旅をしていた頃に出来たという、
木の床がよく軋む石造りのホテルだった。
 飛行機ではなく車での旅を選んだのは、途中で訪ねてお会いしたい人たちがいたからである。
 が、バーズタウンに宿を取ったのは、『
スチーブン・フォスター物語(The Stephen Foster Story)』という野外ミュージカルを観たかったからである。

 一九六〇年代に始まったこのミュージカル公演は、約六十年を経た現在も上演され続けている。
 夏のバーズタウンでしか観ることの出来ないレアなショーである。

 「おおスザンナ」(Oh Susana)、「草競馬」(Gwine to Run All Night)、「故郷の人々」(Old Folks at Home)、「ケンタッキーの我が家」(My Old Kentucky Home)、「オールド・ブラック・ジョー」(Old Black Joe)、「金髪のジェニー」(Jeanie with the Light Brown Hair)、「夢路より」(Beautiful Dreamer)と、フォスターが作った有名な歌曲名を幾つか挙げれば、日本人でもたいてい一つや二つは知っていよう。

 アメリカで最初の職業作曲家となったフォスターは、“アメリカの音楽の父”と呼ばれている。
 しかし、今日のように著作権や印税の保証されていない時代を生きたフォスターの生涯は、その名声とは裏腹に恵まれないものだった。

 『スチーブン・フォスター物語』が上演されるのは、六月中旬から八月中旬までの約二か月間で、私が観たのは六月の中旬だった。
 ミュージカルは夏時間では薄暮の、午後八時に始まった。
 物語の進行に連れて、辺りが闇に包まれてゆく。
 古代ギリシャの円形劇場の勾配を緩くしたような形の客席と舞台の間を舞う蛍の数が増えてゆく。
 ミュージカルが佳境に入る頃には蛍の群舞も最高潮に達した。
 エンディングではキャストが勢ぞろいして「ケンタッキーの我が家」を歌う。
 “… For my old Kentucky home, far away”
 何度聞いても“Kentucky”は「ケンッキー」ではなく、「ケンキ」に聞こえる。

 私がバーズタウンを訪ねた頃、アメリカではフォスターの歌がオンエアーされることが殆どなくなっていた。
 フォスターの歌曲は、まだ人種差別が合法的であった時代に書かれた。
 その多くは “ミンストレル・ショー”という黒人蔑視のエンターテインメントのために書かれた。
 そのことが社会的に微妙な問題になってきた結果である。
 特に、公民権法が制定された一九六四年以降はそれに更に拍車がかかった。
 オンエアーしなくなったのは「触らぬ神に祟りなし」か、「地雷を踏まないように」か。

 人種差別は根強い問題で、今年も大きな暴動にまで発展する事件が起きている。
 アメリカの人々のフォスター音楽に対する現在の評価はどうなのだろうか。
 『スチーブン・フォスター物語』の公演が妨害を受けたという話は聞かないが。

 ともあれ、思いがけなく蛍が演出してくれたバーズタウンでの夢のような一夜を、この季節になると思い出すのである。


 注意: かつてのホームページを含む私のウェブサイト上で、この話は何回か紹介してきた。最近ではテレビなどでもこの野外シアターのことが紹介されたり、旅行社がツアーを企画したりもしているようだ。連絡なく私の記事を活用される場合、万一誤謬があってもその責めは負いかねますのでご承知下さい。

 (2020年6月20日 山中湖にて)


 ご訪問ありがとうございました。


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テーマ : 詩・和歌(短歌・俳句・川柳)など
ジャンル : 学問・文化・芸術

コメント

Secret

こんばんは~

ホタルも歌を聴きながら踊っているのでしょうね~

工房の周りもホタルが沢山飛んでいました。
この時期に夜帰宅すると手に留まったりするぐらい
乱舞していたのですが、ここ数年はほんの少ししか
飛んでいません。今夜も飛んでいません。

しかし、今朝は、家の前の田んぼに、コウノトリが
来ていました(^.^)

Re: こんばんは~

tanbattukoさま

> ホタルも歌を聴きながら踊っているのでしょうね~

なるほど、ホタルも音楽好きだったんですね(笑。

> 工房の周りもホタルが沢山飛んでいました。
> この時期に夜帰宅すると手に留まったりするぐらい
> 乱舞していたのですが、ここ数年はほんの少ししか
> 飛んでいません。今夜も飛んでいません。

田んぼの水路がコンクリート化されてニナがいなくなったり、農薬の影響があったり、
ホタルには生息環境が厳しくなっているようですね。

> しかし、今朝は、家の前の田んぼに、コウノトリが
> 来ていました(^.^)

サギはよくいますが、コウノトリは希少ですね^^
私はまだ見たことがありません。
良い環境ですね~。

コメントありがとうございました^^

No title

こんばんわ  バーズタウンを訪ねて「スティーブン・フォスター物語」の野外劇を鑑賞されたのは素晴らしい思い出になったでしょうね。私は現役時代にシリコンバレーなど半導体関連の会社に出張しましたが、中西部の街は尋ねたことはありません。効率ばかりを考えずに時間をかけてドライブの旅をして見たかったと残念です。アメリカの蛍は見たことはありませんが日本の蛍と似ていますか?

Re: No title

Takさま

> バーズタウンを訪ねて「スティーブン・フォスター物語」の野外劇を鑑賞されたのは素晴らしい思い出になったでしょうね。
> 私は現役時代にシリコンバレーなど半導体関連の会社に出張しましたが、中西部の街は尋ねたことはありません。
> 効率ばかりを考えずに時間をかけてドライブの旅をして見たかったと残念です。
> アメリカの蛍は見たことはありませんが日本の蛍と似ていますか?

商用ではビジネスが絶対使命ですから止むを得ませんね。
私の場合は極力遊ぶことを心掛けていました…って変な言い方(汗。
多少自由裁量の余地があったのは商社だったからかもしれません。
日本のメーカーさんのアテンドも仕事でしたし、その延長で週末は楽しんでいただこうと努力して、自分も一緒に遊んだり(笑。

アメリカの蛍、種類は確認しませんでしたが、大きくて驚いたことを覚えています。
ゲンジボタル並みかそれ以上だったかも知れません。
ご参考になるかどうか。

コメントありがとうございました。
プロフィール

渡邊むく

Author:渡邊むく
男性。岩手県生まれ宮城県育ち。商社勤務、産業技術英語通訳・翻訳者を経て現在はほぼ引退。愛妻ガンコちゃんと二人暮らし。引越し回数二十六回。現在の主な発信地は東京へも富士山へも約70kmの神奈川県秦野市。俳句は2000年から。リンクはどうぞご自由に。

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