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航跡もイルカの群も夕焼ける

秋高し / 技師の秋

2019/11/20 Wed

    秋高く五輪パラボラ建てられし

        (あきたかく ごりんぱらぼらたてられし)


    突貫の五輪パラボラ技師の秋 /むく

        (とっかんのごりんぱらぼら ぎしのあき)



 十月富士 (2019.10.2 山中湖村:山梨県南都留郡)


 前の記事で秋の句は終りにと書きましたが、やはり書き留めておかねばと思う句があり、追加することに。

 二句とも、去る10月24日に東京の市谷で行われた『風人子先生を偲ぶ会』の席上で紹介させていただいたもの。
 事前に投句しなければならなかったのだが、体調、俳句ともにスランプでその礼を失し、当日、先生との思い出の話の中で俄かに紹介させていただくことになってしまった。

 パラボラアンテナ

 数年前の秋のある日、横須賀には希少な、今でも田園の残る里を散歩していたところ、若き日の風人子先生をご存じの方に偶然お遇いした。
 先生とはほぼ同年配の方で、浦賀造船所で職場が一緒だったという。
 その方の家の玄関に招き入れられ、古いスクラップブックを見せていただいた。
 そこには、1964年の東京オリンピックを前に茨城県の鹿島に建設された、テレビの衛星中継用のパラボラアンテナの新聞記事が写真とともに大切に保存されていた。

 パラボラは直径が30メートルもある巨大なもので、当時打ち上げが盛んになってきた通信衛星を使って日本とアメリカが共同して、世界初となる衛星テレビ中継を行おうというプロジェクトのために建設された。
 テレビ放送の記念すべき技術革新プロジェクトが、オリンピックに間に合うようにと、急ピッチで推進されたのだ。
 国家の威信を賭けたそのプロジェクトに成功裏に参加できたことを、その方は生涯の誇りの一つにして来られたようだった。

 その方のお名前を伺い、後日、風人子先生に手紙でご報告申し上げた。
 先生からのご返事には、「その人は思い出せませんが、委細お目にかかった時に」と書かれていた。
 
 風人子先生には次の横須賀吟行会でお会いした。
 そして先生から、パラボラは浦賀造船所で製作し、切断して鹿島に運び、現地で再度溶接組立して完成させたこと、現地責任者として先生が工事の指揮を取られたことをお伺いした。
 その時、先生が呟くように仰られた一言が強く耳に残っている。

 「マスコミの人がたくさん見に来たんだが、あの時、マスコミの人たちにもっと親切にすれば良かった。」
 マスコミがお好きではない先生らしいエピソードとも思えたが、その先生にしてそういう後悔を漏らされるとは…と、一瞬意外に感じられたからだ。
 が、直ぐに、そのやさしさこそが先生らしいと思い直した。
 先生のあの一言の呟きが、今でも私の耳を離れない。

 風人子先生のマスコミ嫌いはこと俳句に関してであり、それは虚子恋一徹ゆえに培われたもののように思える。
 マスコミが…ではないが、「虚子先生は賞が嫌いだった」とも述懐しておられる。
 「賞がショーにならないように」と、賞流行りになった俳句界を嘆いてもおられた。
 先生が主宰する『惜春』には「会員」があるのみで、「同人」も置かれなかった。
 一つとして結社内の賞は設けられなかった。
 私が風人子先生の門を叩いたのは先生の晩年。
 先生は既に俳句界とも距離を置かれていた。

 杯を交わしたことのある『惜春』の先輩の中には、半ば冗談で、「風人子先生に虚子のような政治力が少しでもあれば」とこぼす方もいた。
 しかし、先生のそういう頑固さと、俳句に対して抱いてこられた葉隠れのような矜持(きょうじ)が、私は大好きだ。
 俳句界は高田風人子という一つの大きな宝を失ったのだと、独り思っている。

 鹿島の大パラボラアンテナは東京オリンピックの前年の1963年に完成し、同年11月23日に、太平洋を越えての初めての衛星テレビ中継が成功した。
 この歴史的な衛星中継が届けたのが、皮肉にもケネディ大統領暗殺の悲報だったことは忘れられない思い出である。


 (2019年11月20日 山中湖にて)


 ご訪問ありがとうございました。


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テーマ : 詩・和歌(短歌・俳句・川柳)など
ジャンル : 学問・文化・芸術

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渡邊むく

Author:渡邊むく
男性。岩手県生まれ宮城県育ち。商社勤務、産業技術英語通訳・翻訳者を経て現在はほぼ引退。愛妻ガンコちゃんと二人暮らし。引越し回数二十六回。現在の主な発信地は東京へも富士山へも約70kmの神奈川県秦野市。俳句は2000年から。リンクはどうぞご自由に。

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