Yvonne

雲の峰北緯三十五度の海

夏鶯(なつうぐいす)

2018/05/20 Sun

    夏うぐひす弓手に沿わぬ裁ち鋏 /むく

         (なつうぐいす ゆんでにそわぬたちばさみ)



 忍冬(すいかずら)


 「裁ち鋏」だと私が思っている、歯がX字状に交差している和裁用の鋏は、正しくは「羅紗切り鋏」と称するべきだという。
 理由は、U字形をした「握り鋏」も「裁ちばさみ」と呼ばれるので、両者を区別するためらしい。
 ともに「和ばさみ」と称され、和裁には欠かせない道具である。
 「羅紗切り鋏」という長い名前を嫌って「裁ち鋏」と呼ぶようになったのだろうか。
 
 その裁ち鋏(羅紗切り鋏)には、いささかコンプレックスを持っている。
 理由は私が左利きだからである。
 握り鋏は左手でもさほど不自由なく使えるのだが、裁ち鋏は使い勝手が悪い。

 裁ち鋏は、平柄(ひらえ)と丸柄(まるえ)というそれぞれ大きさの異なる二つの握り(手に持つための環状の部分)があって、丸柄に親指をかけ、他の指は平柄にかけて使う構造になっている。
 問題は、柄の内側の指と接触する部分に傾斜が付いていることである。
 傾斜は右利きの人用に付いているので、左手で使おうとすると逆手になって、特に親指の甲が当たった時には、傾斜が急なために指が痛いのだ。
 当然、切りにくいものを力を込めて切るような時には、より痛みが増す。
 最近では左利き用の鋏が市販されているようで、それを使えば問題は解消するだろうが、使うことは滅多にないので、わざわざ買い揃えようとは思っていない。

 日本での歴史は握り鋏のほうが古いらしい。
 鎌倉の鶴ヶ岡八幡宮に遺されている北条政子(源頼朝の正室)の化粧具の中にも握り鋏があるそうだ。
 対して裁ち鋏のほうは、幕末前後に日本に伝わった大きな羅紗切り鋏が、その後、小型・軽量化されて出来上がったものだという。
 初めは厚手の布地を裁断する洋裁用だったものが、和裁にも便利なように改良されたと考えられる。

 10歳のときに父を亡くしてからは、母の仕立仕事一つが支えの極貧の少年時代だった。
 母が仕立物を裁断する鋏の音を毎日のように聞いて育った。

 大切な仕事道具である鋏に触れることを、母は子供たちに禁じた。
 子供たちが使うことを許されたのは、歯の切れ味が鈍ったりガタが来て使用済みとなったお古の鋏だった。

 夏になっても鳴いている鶯を老鶯(ろうおう)とも言う。
 左利きの私が使う鋏の音のように不器用に鳴く鶯もいるが、すべての鶯がそうだという訳ではない。
 不器用そうに鳴く鶯を聞くと子供の頃の我が身が思い出され、未だにコンプレックスが消えていないことに苦笑する、というだけのことである。


  第二次世界大戦で英国民を勇気づけた「夜鳴き鶯とチェロの協奏曲」(YouTube)
  ベアトリス・ハリスン(Wikipedia)

 (2018年5月20日 横須賀にて)



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テーマ : 詩・和歌(短歌・俳句・川柳)など
ジャンル : 学問・文化・芸術

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プロフィール

渡邊むく

Author:渡邊むく
産業技術英語通訳・翻訳者。男性。岩手県生まれ宮城県育ち。人生の大半は首都圏暮し。海外生活約10年。俳句歴:2000年より。主な発信地:神奈川県横須賀市、山梨県山中湖村。

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