Yvonne

雲の峰北緯三十五度の海

代掻き

2018/04/19 Thu

    菜の花の倒されてゆく代田掻き /むく

         (なのはなのたおされてゆく しろたかき)



 棚田の春 (2018.4.13 仁杉:静岡県御殿場市)


 (前回記事の続き)

 厳寒の水田(みずた)に入って水かけ菜を摘む光景を見たい、写真も撮りたいという思いに駆られた。
 しかし、今冬は御殿場で過ごす時間が取れず、所用で2度ほど一泊しに来ただけに終わった。
 通る道すがらに会えはしないかと、東名高速道は使わず、二宮、松田、小山を経由する街道を通って御殿場に入ったが、街道沿いの田んぼに水かけ菜を見つけ出すことは出来なかった。

 ある日、去年の5月に御殿場の棚田に散っていた花びらは水かけ菜の菜花ではなかったのかという妄想が、ふと脳裏をかすめた。
 水かけ菜の残り花を緑肥として一緒に耕耘するのではないか…水かけ菜の菜花を見つけ、代を掻く日を待っていれば、それをこの目で確かめることができるかもしれない…それなら今からでも間に合いそうだ、と期待が膨らんだ。

 4月12日。
 去年代田(しろた)の写真を撮った同じ場所へ足を運ぶと、少し離れたところにある2枚の田んぼに菜の花が咲いているのを見つけた。
 果たしてその菜の花が水かけ菜のものかどうか、誰かに訊ねたかったが、辺りには一人の人影もない。
 代掻きをする日はいつだろうか。
 今日は午後3時を回ったことだし、これから代掻きをするとは思えない。
 明日また来て見よう。
 いつ雨が降り出すかもしれない空模様だが、どんな天気でも明日の朝また来てみよう。
 代掻きを見逃さないように、毎日でも来よう…と決めた。

 4月13日。
 富士山がすっぽり雲に隠れ、穀雨近しの空模様。
 朝食もそそくさと、ガンコちゃんと二人で棚田を見に行く。
 菜の花はまだ残っていた。
 ときどき雲の切れ間から富士山がちょっぴり顔を覗かせる。
 菜の花と富士山の写真を撮っていると、1台の耕運機がやってきた。
 見ていると、その耕運機は農道を折れて、なんと菜の花が咲いている田んぼに入ってゆくではないか!
 写真を撮るのを止め、小走りに耕運機に近寄り、帽子を脱いで機を操縦している人に声をかけた。

 「あぁ、水かけ菜の菜の花だよ。
 今年は寒波の頃に鴨がたくさんやってきて、芽をほとんど食い荒らしてしまって収穫できなかった。
 その残りが育って今咲いているこの菜の花になった。
 これから代掻き。
 いつも4月20日以降にやるんだけど、しばらく天気が崩れそうだし、雨が降ると耕運機が田んぼに入れなくなるから。
 菜の花はそのまま倒して土と一緒に耕す。
 そうすると他の肥料なしでもちゃんと稲が育つ。」

 4月20日は二十四節気の穀雨。
 時代が変わっても、農に携わる人には二十四節気がこんな風に生きているのか。
 田んぼの菜の花に抱いていた私の疑問が一気に解け、嬉しくて涙が出そうになった。

 代掻きの人は耕運機のエンジンを切って手を休め、こんな話もしてくださった。
 「水かけ菜を作る農家もすっかり少なくなった。
 以前、NHKが『奇跡の山富士山』という番組制作で、この田んぼに1年間通ってきたことがあった。
 それから水かけ菜の菜の花の写真を撮る人がたくさん来るようになった。
 東京から毎年バスで来るプロカメラマンもいるよ。
 今年はまだ来ていないけど。」

 思いがけず、大変な菜の花と巡り合ったようだ。
 感動的な逸話まで聞くことが出来たこの日は、一生忘れられないことだろう。




 代田掻き (2018.4.13 仁杉:静岡県御殿場市)


 (2018年4月19日 御殿場にて)



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テーマ : 詩・和歌(短歌・俳句・川柳)など
ジャンル : 学問・文化・芸術

コメント

Secret

こんばんは♪

菜の花の疑問が解けて良かったです。
菜の花はレンゲと同じような役目をするのですね。

水かけ菜は初めて聞くものですがミズ菜とはまた違うものと出ましたが、
私の処ではないものですわ。

Re: こんばんは♪

miyakoさま

> 菜の花の疑問が解けて良かったです。
> 菜の花はレンゲと同じような役目をするのですね。
レンゲソウも田に植えて緑肥にされていましたね^^
最近はあまり見かけなくなったような。
化学肥料に代わられているんでしょうか。

> 水かけ菜は初めて聞くものですがミズ菜とはまた違うものと出ましたが、
> 私の処ではないものですわ。
私の印象ですが、水かけ菜はミズナより柔らかいように思います。
御殿場でもトウナと呼ぶことがあるようです。
季節になったらまた味わいたいと思います。^^

コメントありがとうございました♪

No title

執念の///ご夫妻には、只々感心しました(*^_^*)
蓮華を梳くことは、虚ろに知って居ました。

流石ですね~
良いお話でした。有難う
写真も素敵です

Re: No title

みなとさま

> 執念の///ご夫妻には、只々感心しました(*^_^*)
ありがとうございます♪
ガンコちゃんは只々あきれ顔でした(笑。

> 蓮華を梳くことは、虚ろに知って居ました。
そうでしたか、さすがですね^^

> 良いお話でした。有難う
> 写真も素敵です
旅の一番の喜びは、こんな変哲のないことに感動できた時です^^

コメントありがとうございました♪
プロフィール

渡邊むく

Author:渡邊むく
産業技術英語通訳・翻訳者。男性。岩手県生まれ宮城県育ち。人生の大半は首都圏暮し。海外生活約10年。俳句歴:2000年より。主な発信地:神奈川県横須賀市、山梨県山中湖村。

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