旅は秋パンとチーズと地のワイン

秀句鑑賞-冬・新年の季語: 雑煮

2013/11/27 Wed

November 27 2013

河野輝暉

 雑煮ぞうに食うも骨をひろうもはしの国

 正月の祝いには欠かせない雑煮を食べるのにも、死者の骨を悲しく拾うのにも箸を使う。そんなことは誰でも知っているが、改めて、それがこの国であり日本人ではないかと自分に言い聞かせ、そして問いかけている。その問いかけの真意はこの一句からだけでは分からないが、このように自らのアイデンティテイを再確認しようとすることは誰にでもあることだろう。そしてそれは、雑煮を食べながらよりは、むしろ死者の骨を拾いながらのことではないだろうか。古典的な部品が鋭い現代的な視点で組み立てられ、コントラストの効いた句。好き嫌いは観賞者に委ねられよう。(渡邊むく)

 【河野輝暉(こうの・てるあき):大分県在住。『月刊俳句界』2013年12月号より。】



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秀句鑑賞-秋の季語: 山粧う

2013/11/19 Tue

November 19 2013

杉本艸舟

 よそほひて名山しのぐ雑木山

 菜園で汗を流した後、近くの公園内を歩いた。元は旧陸軍の練兵場だったという広い公園内には、本格的な陸上競技場や幾つかのアリーナ、野球場、十面近いテニスコートなどもある。並木の大欅が、銀杏が、植込みのドウダンが、みな紅葉している。横須賀の街がこれほど美しかったかと思う。神宮外苑にだって負けていない。掲句の「名山しのぐ雑木山」は誇張ではなく、実感として共鳴できる。日本中のどの町も村も美しく変貌させてしまう春の桜、秋の紅葉は、まさに「粧い」。(渡邊むく)

 【杉本艸舟(すぎもと・そうしゅう):昭和23年(1948年)奈良県生まれ。『ぶどうの木』主宰。『狩』同人。『月刊俳句界』2013年11月号より。】



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秀句鑑賞-夏の季語: 汗

2013/11/19 Tue

November 19 2013

倉田しげる

 田舎俳人みな二等兵汗したたる

 俳句界を支えているのは何百万人と言われる俳句愛好家、つまり無名の俳人たち。「みな二等兵」とは手厳しいが、全くそのご多分に漏れない私は素直に納得することにした。納得はしたが、俳壇を風刺していると誤解されかねないような掲句のきわどい俳謔味に、汗をかいた後に飲む一杯のビールのような爽快感を覚えるには私の悟りがまだ足りない気もする。作者が気炎を吐いて言う「田舎俳人」は、自嘲も込めた泡沫俳人という意味なのだろう。地方結社の俳人という差別的な意味であるはずはない。なぜなら、作者は俳聖芭蕉を生んだ三重県に生まれそこに根を張って活躍している立派な結社の主宰俳人だからである。俳句には田舎も都会もない。二等兵で結構。日本を巡る美しい四季をひたすらに愛する心を持ち続けたい。それが作者の本心であるに違いない。(渡邊むく)

 【倉田しげる(くらた・しげる):昭和5年(1930年)三重県津市生まれ。『三重俳句』主宰。『月刊俳句界』2013年11月号より。】



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秀句鑑賞-秋の季語: 茸(きのこ)

2013/11/18 Mon

November 18 2013

青柳志解樹

 毒きのこ茸図鑑をあざ笑ふ

 突然サイケデリックに飾られた部屋に案内されたように面喰ってしまった掲句。はて…と理解に努めているうちに、「毒きのこ」とは、きのこ雲を作りだし大気や海に放射能を撒き散らしても平然としているような、人間の「狂気」のことではないだろうかと思い至る。図鑑から得られる知識はパターン化された常識。原子力事故のリスク評価も、新たな未来を切り開く叡智さえも全てパターン化された常識にばかり求めるような、人間の浅はかな側面のことではないだろうか、と。そう思うと、掲句からは、作者の哀しい怒りが人類に対する毒きのこの嘲笑となって聞こえてくる。ふと、ピンクフロイドというロックバンドが1970年代に出したアルバム“The dark side of the moon”(狂気)を思い出す。“Brain Damage”(脳損傷)という歌の「…狂人が僕の頭の中にいる」というフレーズがあった。(渡邊むく)

 【青柳志解樹(あおやぎ・しげき):昭和4年(1929年)長野県生まれ。『山暦』、『植物文化の会』主宰。『月刊俳句界』2013年11月号より。】



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秀句鑑賞-秋の季語: 団栗(どんぐり)

2013/11/17 Sun

November 17 2013

杉本艸舟

 団栗どんぐりや踏まれてからの底力

 この秋二度どんぐりを踏んだ。反発係数のことを考えたりもしたが、科学や数学の話は止めよう。作者が思っているのは、感情の動物である人間の心の弾力性である。底の硬い革靴でどんぐりを踏む。素足でどんぐりを踏む。革靴と素足では、足裏に感じる踏まれた団栗の反発力が全く違う。作者は素足のような柔らかい心でどんぐりを踏んだ。原始の心で、物質偏重の現代文明の歪みを痛いほどに感じたのだ。(渡邊むく)

 【杉本艸舟(すぎもと・そうしゅう):昭和23年(1948年)奈良県生まれ。『ぶどうの木』主宰。『狩』同人。『月刊俳句界』2013年11月号より。】



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秀句鑑賞-夏の季語: 蝉(せみ)

2013/11/12 Tue

November 12 2013

伊藤八千代

 大地なほ健やかなりし蝉の穴

 季語は蝉(の穴)で夏。今年七月の『惜春』横須賀吟行会での詠。互選の時、目にした途端に鮮烈なショックが走り、深い感銘を受けた。ショックを受けたのは放射能禍に苦しむ福島の大地を思ったから。感銘を受けたのは作者の精神の健やかさに対して。蝉の穴もよくお詠みになる主宰の風人子先生の御句かと思ったが違っていた。作者がフクシマを意識して詠まれたかどうかはお訊ねしていないが、未来を生きる子供たちを思い、未来に生まれてくるあらゆる命を思う時、「なお健やかなりし」の惜辞は、胸が痛くなるほど切ない希望が込められた限りなく深い祈りとなる。ノーモア・フクシマと心から祈る。(渡邊むく)

 【伊藤八千代(いとう・やちよ):『惜春』会員。神奈川県在住。『惜春』2013年11月号より。】



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秀句鑑賞-春の季語: 耕し

2013/11/10 Sun

November 10 2013

高橋洋一

      耕せる母のうしろを出勤す

 季語は「耕す」で春。吟行会後に行ったスナックバーで歌ったヨイトマケの唄を思い出す。「あれから何年たったことだろう…」という回想の唄だが、掲句は回想ではない。身を粉にして働く母と一緒に作者が暮らしているのは「今」。が、それは大同小異の類。母にばかり苦労をかける負い目を感じながらの出勤。「母にすまない」は、日ごろ口にはしなくても、世の男に共通した自制と発奮の合言葉である。「銀巴里」も消えて久しい。バーでヨイトマケの唄を歌う人もいない。作者が折々に詠んできた珠玉の母の句八句は、順に「耕して耕して母振り向かず」、掲句、「十三夜水に漬けある母の鍬」、「夏帽子デイサービスは母の旅」、「火と縁の切れたる母に蛍の火」、「白寿近き母を燠とし冬温し」、「白寿まで百日の母望の月」、「月に嫁す日までの母と一つ家」。(渡邊むく)

 【高橋洋一(たかはし・よういち):昭和17年(1942年)群馬県生まれ。『絹』主宰。『月刊俳句界』2013年11月号より。】



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秀句鑑賞-冬の季語: 寒紅(かんべに)

2013/11/08 Fri

November 8 2013

星野椿

 寒紅かんべにやそのカクテルを私にも

 男は闘牛のブルのごとし。赤いものにはそそられる。「真っ赤なそのカクテルを私にも」とは、まるで映画のワンシーンだ。このカクテルのグラスは、ステムの付いた逆三角形のショートカクテル・グラス以外には考えらえない。気に入った。こっちも名優気取りでそんな女に出会ってみたい。こんな大らかな句はそうそう詠めるものではないだろう。私が俳句の手ほどきを受けたYさんなら詠みそうだ。作者は星野立子の娘。失礼を顧みない物言いだが、さすがは血筋というべきか。本来、寒紅は紅花から採った紅を寒中に製するとても高価なものだが、概して女性が寒中に粧う紅をそう呼ぶのだそうだ。(渡邊むく)

 【星野椿(ほしの・つばき):昭和5年(1930年)東京生まれ。『玉藻』主宰。『月刊俳句界』2013年11月号より。】



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秀句鑑賞-冬の季語: 冬の蠅

2013/11/06 Wed

November 6 2013

川又曙光

 空瓶からびんの陽をめている冬のはえ

 初めから自由な想像を許して句を詠むのは意外と難しいと考えているが、掲句にはそれがある。空瓶を「あきびん」でも「くうびん」でもなく、すんなりと「からびん」と読むのは私が酒飲みだからだろう。「びん」に「壜」ではなく「瓶」の字を充てていることもその確信を深めさせる。当然、私が想像する空瓶は酒の瓶だが、それは日本酒の一升瓶でもワインボトルでもない。ウィスキーボトルだ。しかもスコッチではなくバーボン。西部劇の世界である。それも、日本では「マカロニウエスタン」、西部劇の本場アメリカでは「スパゲティウエスタン」と呼ばれたイタリア製シネマの一シーンのような荒唐無稽な世界。眺めているのは主役の善玉ではなく悪玉。冬の蠅が空瓶の陽を舐めている光景を眺めるのは、そんな無頼漢にこそ相応しいと思うのだが、どうだろう。無理やりにも著名な俳人に当てはめるならば、種田山頭火的というよりは尾崎放哉的。作者はどんな時にこの句を詠んだのだろう。(渡邊むく)

 【川又曙光:『ゆく春』同人。『月刊俳句界』2013年11月号より。】



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秋の季語: 花煙草(はなたばこ)

2013/11/05 Tue

November 5 2013

柏原眠雨

 蔵王嶺ざおうねの半ばは雲に花煙草たばこ

 摘花するので、花タバコが見られるのは初秋のほんの一時。花は可憐だが草丈は大人の背丈以上にもなる。園芸種とは異なる。作者は仙台を拠点とする結社の主宰。掲句は仙南地方の景か。一面のひまわり畑に立っているような気持の良い詩だ。「花は霧島たばこは国分」は鹿児島小原節だが、東北地方でもタバコ栽培は古くから盛んだった。子供の頃、畑や庭先に長々と張った縄の撚り目にタバコの葉を一枚一枚挟んで吊るし、乾燥させているのをよく見かけた。喫煙がマイナーになるにつれ、タバコ栽培も衰退してゆくのだろう。(渡邊むく)

 【柏原眠雨(かしわばら・みんう):昭和10年(1935年)東京生まれ。『きたごち』主宰。神葱雨、澤木欣一に師事。『月刊俳句界』2013年11月号より。】



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プロフィール

渡邊むく

Author:渡邊むく
職業:産業技術英語通訳・翻訳者。男性。俳句歴:2000年より。(主な発信地:神奈川県横須賀市、静岡県御殿場市)

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