灯籠や今も引揚桟橋と むく

秀句鑑賞 冬・新年の季語: 四日

2016/02/05 Fri

February 5 2016

銭湯のボイラー唸る四日かな  瀬島銀造

(せんとうのぼいらーうなる よっかかな)



 大晦日の銭湯には普段より遅くまで営業しているところも少なくなかった。昭和の話である。三元日の間も朝湯などをやってくれるお風呂屋さんは、本当に働き者だと感心したものだ。
 その銭湯は、内風呂の普及に相俟って廃業するところが相次ぎ、今では数がめっきり少なくなってしまった。と言っても、無くなった訳ではない。新興住宅地で新たに開業するようなことはまずないかもしれないが、古い町ほど今も頑張っている銭湯が多い。掲句の銭湯、三日までは朝湯だけの営業だったのだろうか。平常営業の四日のボイラーが景気よく唸っている。
 大量の湯を沸かす銭湯の燃料も時代とともに変わってきた。かつて、銭湯の裏手にはボイラーの燃料にする廃材が山と積んであったものだが、薪ボイラーは重油焚きやガス焚きのボイラーに変り、最近ではハイブリッド・ボイラーも使われるようになった。
 ボイラーの唸りを聞きながら、作者は、そうした銭湯の今昔や燃料事情の変化に思いを馳せているのである。

(渡邊むく)


 【月刊「俳句界」2015年5月号掲載句】

菜の花
菜の花 (散歩道:神奈川県横須賀市 2016.1.31)



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秀句鑑賞 冬の季語: 狐火(きつねび)

2015/11/08 Sun

November 8 2015

狐火の峰を渡りてそれっきり  三泊みなと

(きつねびのみねをわたりて それっきり)



 狐火を見たことがある人は少ないだろう。 私も見たことはない。実際に見たことがなくても何がしか一定の想像が出来るのは、狐火にまつわる話を子供の頃から聞いてきたからか。 怪談などの「怖い話」が成立するのは人間は暗闇を怖がる動物だからであり、そうした怖いものに対して危険予知本能を持っているからであろう。 狐火の正体についてはいろいろな説があるが、正体が解明されてしまうと怖さもなくなるわけで、謎であるからこそ狐火なのだ。 峰を渡ったその謎めく狐火の結末への期待を「それっきり」と肩透かしでかわしてみせる惜辞は、句に現代的な命さえ吹き込んで見事。(渡邊むく)

 【三泊みなと(りまど)さんのブログ 彩時記


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秀句鑑賞-冬の綺語: 冬木(ふゆき)

2014/01/18 Sat

January 18 2014

正岡子規

 横須賀や只帆檣の冬木立

 帆檣(はんしょう)とは帆柱、つまりマストのこと。明治21年、二十歳の青年子規が詠んだ句。大日本帝国海軍が日本国防衛省海上自衛隊に変わっても、米海軍基地もある横須賀は今も軍港の町である。灰色の艦艇の船檣(せんしょう)が並び立つ事実は今も変わっていない。ところで、調べた折に気が付いたのだが、子規がこの句を詠んだのは冬ではないようだ。夏季休暇中に、東京(のどこの桟橋からかまでは調べていない)から船で横須賀に渡り、鎌倉方面に遊んだ折に詠んだらしい。後に俳句における写生の大切さを説いた近代俳句の始祖とも言える子規ではあるが、掲句が成立した経緯をいささか知ってみると、夏の景色を冬にしてしまうあたりに、一筋縄ではいかない曲者ぶりも窺われて面白い。(渡邊むく)

 【正岡子規(まさおか・しき): 慶応3年15年(1867年)-明治35年(1902年)。愛媛県松山市出身。】



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秀句鑑賞-冬の季語: 水洟(みずばな)

2014/01/16 Thu

January 16 2014

内藤美づ枝

 水洟をかみ反論に転じたる

 季語は水洟(みずばな)で冬。どんな人が水洟をかんでいるのだろう。作者自身?深刻な夫婦喧嘩?恋人からの別れ話、あるいは恋人に訣別する言葉のもつれ?作者は学校の先生で(あるかどうかは知らない)、子供同士の情景を観察しているのか?現実の光景ではなく、テレビドラマを観ているのか?と、さまざまな状況が空想される。いや、そのような空想をするよりも、この句がなぜ私の心にグサッときたのかを書くべきだろう。理由は一つしかない。いつかどこかで、私自身がそのような捨て身の悲しい反論をした記憶を、この句が呼び覚ますからなのだ。作者自身の心情を詠んだ句と鑑賞したい。そのような悲しい体験は、普通は詠まないし、詠んでも共感を得られる句になりにくい。負の世界を切り口鋭く現代的感覚で詠み、見事に成功させた。衝撃を受けた一句。(渡邊むく)

 【内藤美づ枝: 鹿児島県在住。『月刊俳句界』2013年4月号より】



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秀句鑑賞-冬・新年の季語: 雑煮

2013/11/27 Wed

November 27 2013

河野輝暉

 雑煮ぞうに食うも骨をひろうもはしの国

 正月の祝いには欠かせない雑煮を食べるのにも、死者の骨を悲しく拾うのにも箸を使う。そんなことは誰でも知っているが、改めて、それがこの国であり日本人ではないかと自分に言い聞かせ、そして問いかけている。その問いかけの真意はこの一句からだけでは分からないが、このように自らのアイデンティテイを再確認しようとすることは誰にでもあることだろう。そしてそれは、雑煮を食べながらよりは、むしろ死者の骨を拾いながらのことではないだろうか。古典的な部品が鋭い現代的な視点で組み立てられ、コントラストの効いた句。好き嫌いは観賞者に委ねられよう。(渡邊むく)

 【河野輝暉(こうの・てるあき):大分県在住。『月刊俳句界』2013年12月号より。】



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秀句鑑賞-冬の季語: 寒紅(かんべに)

2013/11/08 Fri

November 8 2013

星野椿

 寒紅かんべにやそのカクテルを私にも

 男は闘牛のブルのごとし。赤いものにはそそられる。「真っ赤なそのカクテルを私にも」とは、まるで映画のワンシーンだ。このカクテルのグラスは、ステムの付いた逆三角形のショートカクテル・グラス以外には考えらえない。気に入った。こっちも名優気取りでそんな女に出会ってみたい。こんな大らかな句はそうそう詠めるものではないだろう。私が俳句の手ほどきを受けたYさんなら詠みそうだ。作者は星野立子の娘。失礼を顧みない物言いだが、さすがは血筋というべきか。本来、寒紅は紅花から採った紅を寒中に製するとても高価なものだが、概して女性が寒中に粧う紅をそう呼ぶのだそうだ。(渡邊むく)

 【星野椿(ほしの・つばき):昭和5年(1930年)東京生まれ。『玉藻』主宰。『月刊俳句界』2013年11月号より。】



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秀句鑑賞-冬の季語: 冬の蠅

2013/11/06 Wed

November 6 2013

川又曙光

 空瓶からびんの陽をめている冬のはえ

 初めから自由な想像を許して句を詠むのは意外と難しいと考えているが、掲句にはそれがある。空瓶を「あきびん」でも「くうびん」でもなく、すんなりと「からびん」と読むのは私が酒飲みだからだろう。「びん」に「壜」ではなく「瓶」の字を充てていることもその確信を深めさせる。当然、私が想像する空瓶は酒の瓶だが、それは日本酒の一升瓶でもワインボトルでもない。ウィスキーボトルだ。しかもスコッチではなくバーボン。西部劇の世界である。それも、日本では「マカロニウエスタン」、西部劇の本場アメリカでは「スパゲティウエスタン」と呼ばれたイタリア製シネマの一シーンのような荒唐無稽な世界。眺めているのは主役の善玉ではなく悪玉。冬の蠅が空瓶の陽を舐めている光景を眺めるのは、そんな無頼漢にこそ相応しいと思うのだが、どうだろう。無理やりにも著名な俳人に当てはめるならば、種田山頭火的というよりは尾崎放哉的。作者はどんな時にこの句を詠んだのだろう。(渡邊むく)

 【川又曙光:『ゆく春』同人。『月刊俳句界』2013年11月号より。】



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プロフィール

渡邊むく

Author:渡邊むく
職業:産業技術英語通訳・翻訳者。男性。俳句歴:2000年より。(主な発信地:神奈川県横須賀市、静岡県御殿場市)

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