BGM: Aqua Harp


茱萸沢のここより棚田雪解富士 むく

秀句鑑賞-春の季語: 雲雀(ひばり)

2015/03/25 Wed

Marhc 25 2015

渥美清

       いつも何か探しているようだナひばり

 烏、雀、鳩、鳶などの身近な鳥は別として、見たい野鳥は肉眼で観察できる距離にはなかなか来てくれない。その中で、雉や雲雀は比較的目にすることが出来る。ただ、雲雀は小さく、外敵から卵を守るために警戒心が強く、肉眼で表情まで窺い知るのはむずかしい。その雲雀を、「いつも何か探しているようだ」と言う作者。どんな時に、どんな思いを雲雀に託して詠んだ句なのだろう。貧しい時代の貧しい家庭で生まれ育った渥美清は「欠食児童」で病弱な子供だった。体育の時間は実技を免除され、いつも見学を余儀なくされていたと聞く。コメディアンを志し、少し芽が出はじめた二十代半ばに、当時は不治の病とされた結核を患って片肺を切除。療養中に目にした尾崎放哉の「咳をしても一人」の句は、作者に大きな影響を与えたようだ。作者にも破調の句が多い。人はどんな時に既成の枠に嵌るまいとするのだろう。掲句は、作者がサナトリウムで長い療養生活を送っていた頃に思いを馳せて詠んだように思えてならない。(渡邊むく)

 【渥美清(あつみ・きよし):昭和3年~平成8年(1928~1996年)東京都生まれ。俳号「風天」。『月刊俳句界』2015年3月号より。】




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秀句鑑賞-春の季語: 暖か(あたたか)

2013/12/30 Mon

December 30 2013

伊藤通明

       世の隅といふあたたかきところかな

 人は時に来し方を振り返って自分が今いる場所を確かめる。その時、これまでもそして今も、人生は「あたたか」だと肯定できることは幸せ。物質偏重の思考からは辿り着けない価値観である。俳句の社会的な意義の一つは、エスカレートする一方のマテリアリズムに対して警鐘を鳴らす役目を担っていることだと言えよう。勝ち組だの負け組だのと人間を色分けする考え方は、物質的な豊かさだけで人間の価値を判断しようとする、いわば現代病である。俳句は感情に発して心の豊かさを追求する人間讃歌の文芸。自分のいる場所を「世の隅」と言う作者の庶民的な認識もまた、その心の豊かさを示すものに他ならない。俳句は呪文でもある。平明で忘れられなくなりそうな秀句。(渡邊むく)

 【伊藤通明(いとう・みちあき):昭和10年(1935年)福岡県生まれ。『白桃』主宰。『月刊俳句界』2014年1月号より。】



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秀句鑑賞-春の季語: 耕し

2013/11/10 Sun

November 10 2013

高橋洋一

      耕せる母のうしろを出勤す

 季語は「耕す」で春。吟行会後に行ったスナックバーで歌ったヨイトマケの唄を思い出す。「あれから何年たったことだろう…」という回想の唄だが、掲句は回想ではない。身を粉にして働く母と一緒に作者が暮らしているのは「今」。が、それは大同小異の類。母にばかり苦労をかける負い目を感じながらの出勤。「母にすまない」は、日ごろ口にはしなくても、世の男に共通した自制と発奮の合言葉である。「銀巴里」も消えて久しい。バーでヨイトマケの唄を歌う人もいない。作者が折々に詠んできた珠玉の母の句八句は、順に「耕して耕して母振り向かず」、掲句、「十三夜水に漬けある母の鍬」、「夏帽子デイサービスは母の旅」、「火と縁の切れたる母に蛍の火」、「白寿近き母を燠とし冬温し」、「白寿まで百日の母望の月」、「月に嫁す日までの母と一つ家」。(渡邊むく)

 【高橋洋一(たかはし・よういち):昭和17年(1942年)群馬県生まれ。『絹』主宰。『月刊俳句界』2013年11月号より。】



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秀句鑑賞-春の季語: メーデー

2013/10/06 Sun

October 6 2013

吉田渭城

      メーデーを離れ放浪くせとなる

 メーデーは五月一日に行われる労働者の祭典で“あった”と、今や過去形で語る時代。若き日の作者は、そのメーデーの群衆から一人離れた。それが放浪癖の始まりだったとは、なかなかお洒落な物言い。労働者としてより風雅の道に未来を求めたのだ。作者はその日、花の寺の静かな境内で美しい人と出会ったりはしなかっただろうか。「放浪癖」を、私は“ほうろうへき”ではなく“ほうろう・くせ”と読む。(渡邊むく)

 【吉田渭城(よしだ・いじょう):昭和5年(1930年)生まれ。東京育ち。『冬浪』主宰。加藤楸邨に師事。『月刊俳句界』2012年9月号より。】



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渡邊むく

Author:渡邊むく
職業:産業技術英語通訳・翻訳者。男性。俳句歴:2000年より。(主な発信地:神奈川県横須賀市、静岡県御殿場市)

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